筆の取り扱いについて 1.根元に墨を溜めないこと:筆の毛先の割れや軸が割れる原因となる。 2.墨汁を使った場合: 防腐剤などの成分が入ることもあり、固形墨よりも凝固しやすく、穂の根元に墨たまりが出来やすいので使用後は手入れを忘れずにすること。 3.毛先を曲がったまま放置しない事。 悪い癖が付くとなかなか元にもどらない。特に剛毛で作られた筆は元に戻らなくなる可能性が強い。 4.筆の使用後の注意 ・ビニールキャップに入れて置いたり、筆巻きに巻いたまま放置すると、カビが生えたり、蒸れて毛が切れたり、毛抜けをおこしたりするので注意する事。 ・使用後は根元までしっかり洗って、穂先を下に吊るすなどして陰干しし、充分乾燥させてから保管するようにするのが良い。 乾燥し過ぎると軸が割れてくるので、直射日光の当たる場所で筆を乾かしたりしないこと。 筆について: 中国古代の甲骨文字(こうこつもじ)や 金文(きんぶん)に見られる 手で筆記用具を持つ象形文字の「聿」(いつ)が 後の「筆」になった。中国製の筆を「唐筆」とよび日本製の筆を「和筆」と呼ぶ。 筆の始祖 中国の新石器時代、(紀元前50~25世紀頃) の彩色土器の文様に、太い線や細い線のあるところから察して、小枝や葦 (あし)の先端を斜めに切断して鋭くしたり、叩いて柔らかくして刷毛状にしたものを使って描いたと考えられる。 筆を初めて造ったのは、中国古代三皇五帝の一人である黄帝の側臣の 蒼頡 (そうけつ)と伝えられている。その頃は鉄などを錐 (きり)のようにして、岩や獣骨に文字を彫りつけるのに用いられてた。 その後、竹や木の先を尖らし、竹簡、帛(絹)などに文字を記すようになった。 獣毛を使って現在のような筆を作ったのは,新時代の蒙恬 (もうてん) 将軍で、枯木を管(じく)とし、鹿毛を柱 (しん)に、羊毛を被 (おおい)として造った筆を始皇帝に献上したのが始まりといわれている。 日本に現存する最古の筆は正倉院にある 「天平筆」(てんぴょうひつ)・「雀頭筆」(じゃくとうひつ) とされ、芯の毛と紙を丹念に交互に巻きつける当時の製法を示す古筆といわれている。 毫(ごう)=毛 命毛・・命毛(いのちげ)「のげ」ともいう。特に穂の先の部分は筆の命といえる部分で、毛質の良い毛が利用されている。 筆の先端から下部にかけての毛を 命毛、のど、腹、腰と呼び、それぞれの長さに切り分け、何度も混ぜ合わせ、均一性のある筆の穂首を作り、毛は命毛から腰に近い部分ほど、弾力性に富んでいる毛を使用している。 毛の種類 剛毛(ごうもう):狸・鼬・鹿・馬・猪などの毛で作られ、弾力が強い。 柔毛(じゅうもう):羊・猫などの毛で作られ、柔らかく、しなやかで墨含みも良く、線にも様々な表現力がある。 兼毛(けんもう):剛毛と柔毛を混ぜて作られる唐筆の軸に「七紫三羊」とか「四紫六羊」とあるのは、硬い紫毛(うさぎの毛)七に対して、柔らかい羊毛が三の割合で混ぜてある事を示しています。 馬毛: 腰が強く、初心者には扱いやすい。線に潤いや味わいを出しにくい点があります。「天尾」(あまお)は、馬の尻尾の付け根の辺りの毛を言い、「剛毫筆」の高級筆。馬毛の中でもとくに力が強く腰が強い筆で太筆の弾力を強くするため芯毛などにも使用される。 山馬毛(さんばもう)…馬ではなく、東南アジアに生息する水鹿の一種の毛で、馬毛より腰がつよく、ごわごわした手触りですが、入手困難な毛のため、大変高価である。 狸: 「狸毫(りごう)」は とても高級品。毛先が非常に強く、鋭くとがっている。毛先に向かって太くなり、強い弾力があり、先が利くので、仮名筆や写経筆に向く。日本狸の白毛は特に上質とされている。 日本画、化粧、友禅や陶芸の絵付けなどでも細い線を書く場合など、「狸毫」は欠かせない。漢字用の大筆でも、「命毛」に「狸毫」が使われていれば、スッキリした、切れ味のいい「払い」や「ハネ」が書ける。 鼬(いたち): 穂全体に弾力があり鋒先も利くので、筆線が大変繊細に表現できる。墨含みもよく、まとまりもよい。鼬(いたち)の尻尾は、筆の高級原料としてよく使用される。尚、 いたちの毛は、毛と毛がくっつき合う性格があり、穂先がよくまとまり、筆のすべりも良く、左右の払いがきれいにかけるなど、楷書、行書に最適。 鹿: 日本、中国の鹿の毛を利用される。夏冬どちらの毛も利用できますが、特に胸毛や尾毛は墨含みがよく、毛丈が長く陶器筆として珍重されている。 羊毛: 羊といっても、綿羊ではなく、中国の江南地方に生息する山羊(やぎorやまひつじ)の毛のこと。毛は白く、適度な弾力と整った毛先をもち、特にのどの下の部分の毛は 「細光鋒」「粗光鋒」とよばれ、山羊の身体の他のどの部分よりも優れた毛として珍重される。 100%羊毛の毛ばかりの「純羊毫筆」は、芯の中まで毛が白く、柔らかで、上級者向きの筆。級と言われ、 「宿浄純羊毫」とか「細光鋒」「細微光鋒」といわれる筆は 大変高価なものである。 「羊毫筆」は行書や楷書、隷書などを書くのに適している。柔軟性に富み、含蓄がある個性的な表現や芸術的創作が可能となる。 兎: 兎の毛は紫毫と呼ばれ、紀元前から中国で原料として使用されている。特性として毛先が良く、弾力性に富み一般的には小筆に使用される。 玉毛: 猫の毛。毛質に粘りがあり、あたりはソフトながら鋒先が利く。 其の他変わった素材 だちょう、白鳥、軍鶏(しゃも)、くじゃくなど鳥の羽を素材にした筆もあり、鳥の羽ならではの面白い筆跡を楽しむことができる。 「藁」や「イグサ」、竹などの植物を素材とした筆では、植物のもつ硬い繊維を利用した独特のかたい質感のある筆跡を出すことができる。室町時代の一休和尚は、竹筆を好んで使ったことで知られている。
by aakinishi
| 2007-01-06 14:54
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